絶滅の人類史 なぜ「私たち」が生き延びたのか(更科 功)
2019年10月5日 読書評価:☆☆☆☆☆
平易な言葉と柔らかい語り口調でやたら読みやすいし、「筋が通っているからといって仮説が真実とは限らない」というスタンスで偏りをなくそうとする努力が感じられる。むかし信じられていた常識を比較的最近の研究成果でアップデートしてくれるうえ例えが分かりやすい。他人に勧められる本。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
チンパンジーをはじめとした類人猿には牙がある。これは威嚇のため、同族間での争いに勝ち残ってメスに自分の子供を産ませるためである。しかし人類に牙は無い。なぜなら他の類人猿と違ってヒトには発情期が無く、毎年のように出産することが可能だからである。類人猿は出産のインターバルが長いため、少ないチャンスをものにせんとオスが躍起になる。他のオスに孕まされるとそのメスは数年間出産できないので交配可能なオスとメスのバランスが崩れる。一方、ヒトはいつでも出産できることでその割合がだいたい1:1に近い状態を保ち続けられた。
ヒトはこの多産を武器に生息域を広げた。要するに草原でヒョウやライオンに食われても、それ以上に産めよ増やせよすれば種としては反映するのだ。自然界では優れた生物が勝ち残るのではなく子供を多く残したものが生き残るのだ。優れていることはその理由あるいは手段にすぎない。
「ヒトは直立二足歩行をはじめたので手が自由になり、道具を使えるようになったことで脳が発達した」というのは昔から言われている進化の定説だが、正しくない。直立二足歩行をはじめてから450万年もの間、石器も作らなかったし脳容量も大きくはならなかった。
直立二足歩行は他の類人猿に比べて森林に適応できず追い出されたヒトが一夫一妻制のもと食料を運搬して自分の子供を効率よく育てるために進化したもの(多夫多妻制だと食料を運んでも自分の子供以外を育てることになるかもしれない)。
初期の人類は草食だったためカロリーを多くは摂取できず、したがってカロリーを多く消費する脳を大きくするわけにはいかなかった。草原に出てきたことで肉食もするようになると肉のカロリーによって脳を大きくする余裕ができた。また、肉は植物より消化しやすいため腸が短くなり、その分のカロリーも脳に回せた。
「かつてアフリカに住んでいたただ一人の女性『ミトコンドリア・イブ』が現生人類全ての祖先だ」という言説があるが、正しくない。ミトコンドリアDNAは母系遺伝する(母親からのみ次代へ遺伝する)。自分の1代前の祖先は2人(父母)、2代前は4人(父系・母系の祖父祖母)、3代前は8人……と遡る度どんどん増えていくが、自分のミトコンドリアDNAはどんなに遡っても増えず、大昔のアフリカに住んでいた一人の女性に行き着く。しかし、それは先祖が全員アフリカに住んでいたことを保証しない。祖先は世界中にいたかもしれないが、ミトコンドリアDNAの提供者はたまたまアフリカにいた、というだけの話かもしれないのだ。
さらに、ここに100人の女性がいたとする。全員別々のミトコンドリアDNAを持っている。しかし時が経てば男子しか産まなかったり出産しなかったりでどんどんミトコンドリアDNAの種類は減っていく。そしてとうとうたった1つのミトコンドリアDNAが残ったとき、最初の女性がその時代すべての人にとってのミトコンドリア・イブになるのだ。
ただし、ミトコンドリアDNAは変異することもある。もし変異したミトコンドリアDNAが先々まで残れば、次の時代のミトコンドリア・イブは変異したミトコンドリアDNAの保有者かもしれない。ただしそれが分かるのは数万年単位の未来から遡ったとき以外に無い。
ネアンデルタール人はホモ・サピエンスより脳容量が大きかったが、それは余計にカロリーを必要とする、ということ。省エネだったホモ・サピエンスのほうが生き残りやすかった。2種の生物が生き残りを競い合う場合、戦争に依らずとも(そもそもネアンデルタール人とホモ・サピエンスが争った証拠はそう多くない)ほんの少し人口増加率が高ければいいのだ。
平易な言葉と柔らかい語り口調でやたら読みやすいし、「筋が通っているからといって仮説が真実とは限らない」というスタンスで偏りをなくそうとする努力が感じられる。むかし信じられていた常識を比較的最近の研究成果でアップデートしてくれるうえ例えが分かりやすい。他人に勧められる本。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
チンパンジーをはじめとした類人猿には牙がある。これは威嚇のため、同族間での争いに勝ち残ってメスに自分の子供を産ませるためである。しかし人類に牙は無い。なぜなら他の類人猿と違ってヒトには発情期が無く、毎年のように出産することが可能だからである。類人猿は出産のインターバルが長いため、少ないチャンスをものにせんとオスが躍起になる。他のオスに孕まされるとそのメスは数年間出産できないので交配可能なオスとメスのバランスが崩れる。一方、ヒトはいつでも出産できることでその割合がだいたい1:1に近い状態を保ち続けられた。
ヒトはこの多産を武器に生息域を広げた。要するに草原でヒョウやライオンに食われても、それ以上に産めよ増やせよすれば種としては反映するのだ。自然界では優れた生物が勝ち残るのではなく子供を多く残したものが生き残るのだ。優れていることはその理由あるいは手段にすぎない。
「ヒトは直立二足歩行をはじめたので手が自由になり、道具を使えるようになったことで脳が発達した」というのは昔から言われている進化の定説だが、正しくない。直立二足歩行をはじめてから450万年もの間、石器も作らなかったし脳容量も大きくはならなかった。
直立二足歩行は他の類人猿に比べて森林に適応できず追い出されたヒトが一夫一妻制のもと食料を運搬して自分の子供を効率よく育てるために進化したもの(多夫多妻制だと食料を運んでも自分の子供以外を育てることになるかもしれない)。
初期の人類は草食だったためカロリーを多くは摂取できず、したがってカロリーを多く消費する脳を大きくするわけにはいかなかった。草原に出てきたことで肉食もするようになると肉のカロリーによって脳を大きくする余裕ができた。また、肉は植物より消化しやすいため腸が短くなり、その分のカロリーも脳に回せた。
「かつてアフリカに住んでいたただ一人の女性『ミトコンドリア・イブ』が現生人類全ての祖先だ」という言説があるが、正しくない。ミトコンドリアDNAは母系遺伝する(母親からのみ次代へ遺伝する)。自分の1代前の祖先は2人(父母)、2代前は4人(父系・母系の祖父祖母)、3代前は8人……と遡る度どんどん増えていくが、自分のミトコンドリアDNAはどんなに遡っても増えず、大昔のアフリカに住んでいた一人の女性に行き着く。しかし、それは先祖が全員アフリカに住んでいたことを保証しない。祖先は世界中にいたかもしれないが、ミトコンドリアDNAの提供者はたまたまアフリカにいた、というだけの話かもしれないのだ。
さらに、ここに100人の女性がいたとする。全員別々のミトコンドリアDNAを持っている。しかし時が経てば男子しか産まなかったり出産しなかったりでどんどんミトコンドリアDNAの種類は減っていく。そしてとうとうたった1つのミトコンドリアDNAが残ったとき、最初の女性がその時代すべての人にとってのミトコンドリア・イブになるのだ。
ただし、ミトコンドリアDNAは変異することもある。もし変異したミトコンドリアDNAが先々まで残れば、次の時代のミトコンドリア・イブは変異したミトコンドリアDNAの保有者かもしれない。ただしそれが分かるのは数万年単位の未来から遡ったとき以外に無い。
ネアンデルタール人はホモ・サピエンスより脳容量が大きかったが、それは余計にカロリーを必要とする、ということ。省エネだったホモ・サピエンスのほうが生き残りやすかった。2種の生物が生き残りを競い合う場合、戦争に依らずとも(そもそもネアンデルタール人とホモ・サピエンスが争った証拠はそう多くない)ほんの少し人口増加率が高ければいいのだ。
コメント